ここでは、サービス研究に関する重要な論文や記事、資料などを順次、紹介していきます。
[最近のサービス研究の特徴]
従来の「サービス品質―顧客満足―ロイヤルティ」という枠組みを維持しつつ、研究対象が大きく拡張している。第一に、生成AIやAIエージェントの普及により、「AIか、人間か」という比較から、人間とAIの役割分担、引継ぎ、説明、信頼、社会的存在感などを含むサービス・システム全体の設計へ関心が移っている。第二に、価値の想像を顧客を中心にすえて捉えるだけでなく、顧客の非礼行動やカスタマーハラスメント、従業員の心身の良好な状態、仕事の有意味感など、従業員側からサービスを捉え直す研究が増えている。第三に、個別企業・顧客間の交換から、複数主体が関与するサービス・エコシステム、持続可能性、社会的価値へ分析単位が拡大している。さらにNPSなど単一指標への依存への批判と見直し、顧客関係を多面的・継続的に測定しようとする動きも目立つ。総じて、最近のサービス研究は「顧客満足の研究」から「人間・AI・従業員・組織・社会を統合したサービス・システムの研究」へと重心を移しつつある。
チャットボットのサービス品質を応答速度、利用可能性、自動化率などの技術的指標ではなく、顧客が直接経験する「言語品質」から捉え直した研究である。411名の調査データを分析した結果、言語品質は信頼と正に関連し、言語品質と信頼によって顧客満足の50.7%が説明された。また、再利用意向には顧客満足が重要な役割を果たした。生成AIサービスでは正しい答えを返すことだけでなく、文章の明確性、一貫性、語彙、構文、意味の分かりやすさなど「どのように伝えるか」自体がサービス品質を構成することを示しており、AI時代のSERVQUALを考える上でも重要な研究である。
2026年10月1日からの事業主によるカスタマーハラスメント対策義務化を踏まえ、カスハラの定義、企業方針、相談体制、事実確認、被害を受けた従業員への配慮、再発防止、関係機関との連携などを体系的に示した政府資料である。最大の意味は、カスハラを第一線従業員個人の接客能力、忍耐力、苦情処理技術の問題ではなく、企業が組織として予防・対応すべき経営・労務上の問題へ転換した点にある。顧客志向をどこまで追求すべきか、従業員保護と顧客満足をどう両立させるかというサービス・マーケティングの基本問題にも関係し、日本のカスハラ研究における重要な一次資料である。
約6,000人の管理職・従業員を対象に、AIへの投資と実際に得られた成果との乖離を調査した報告書である。72%の組織が業務プロセス上の問題によってAI施策の失敗を経験し、その平均損失額は155万ドルに達したと報告する。また82%が、業務プロセス再設計への投資なしにはAI投資が十分な成果を生まないと考えている。重要なのは、AIを既存業務に単純に付加するのではなく、人間、AI、情報システムの役割分担を含めて業務プロセスそのものを再設計すべきだという点である。AI時代のサービス・ブループリントやサービス・マネジメントを考える上で示唆に富む資料である。
1,000人を超える利用者を対象に、顧客サービスを担当するAIへの態度、能力評価、信頼などを調査した報告書である。AIによる顧客対応に好意的な経験を持つ回答者は前年より増加し、実際にAIが問題を解決する場面を提示すると評価がさらに上昇したと報告する。一方、AIへの信頼は一様ではなく、問題の複雑さや感情的配慮を必要とする程度によって大きく変化する。したがって「AIを受け入れるか」という一般的態度と、「特定の問題処理をAIに任せたいか」という利用意向を区別する必要があり、人間への切り替え条件を設計する上でも重要な実務的示唆を持つ。
職場における人間とAIの相互作用を単なるAI利用頻度ではなく、AIを人間的存在として知覚する程度、AIへの状況適応的な信頼、一方向的な感情的結びつきという三次元から概念化し、19項目の尺度を開発した研究である。さらに、人間とAIの相互作用が従業員の職務成果と正に関連し、その関係を役割アイデンティティと自己効力感が部分的に媒介することを示す。AI導入研究を「技術を受容するか」という問題から「従業員がAIとどのような関係を形成するか」という問題へ進めた点が重要であり、AI研修、管理者支援、信頼、自己効力感を統合した研究モデルへ発展させる余地が大きい。
世界の労働者を対象として、AI導入、仕事量、意欲、管理のあり方などを分析した実務調査である。従業員の62%が過去2年間に仕事量が大幅に増えたと回答し、45%は組織の成長につながる意味のある成果を生み出す余裕がないと回答した。AIによる生産性向上だけでは従業員の処理能力や過重労働の問題を解決できず、仕事そのものの再設計が必要であるとの問題意識を示す。インターナル・マーケティングを従業員満足や社内コミュニケーションだけでなく、職務設計、管理者支援、AIによる能力補完を含む「社内サービス・システム」として捉える上で有用である。
ベトナム・ダナンの地域薬局利用者409名を対象に、23項目・6次元からなるサービス品質尺度を検証し、顧客満足、ロイヤルティ、口コミ意向との関係を構造方程式モデリングによって分析した研究である。対人コミュニケーション、薬剤に関する助言、価格の公正性が満足度と有意に関連し、満足度はロイヤルティ、ロイヤルティは口コミ意向へ強く関連した。一方、物理的環境など一部の品質次元は有意ではなかった。NPS・PSJのような総合指標が持つ「結果予測力」と、多次元サービス品質尺度が持つ「どこを改善すべきかを特定する診断力」を区別する教材として有用である。
台湾の金融サービス従事者800名を対象として、AIを活用した顧客関係管理能力が組織成果へ結びつく仕組みを部分最小二乗法による構造方程式モデリングで検証した研究である。AI対応CRM能力はサービス革新と強く関連し、サービス革新は組織の回復力や持続可能性を高める一方、サービス革新を考慮するとAI対応CRM能力から最終成果への直接効果は有意ではなくなった。すなわちAIそのものが成果を生むのではなく、AIを新しいサービスへ転換する組織能力が重要であることを示す。AI導入件数や利用率ではなく、サービス革新への転換過程を測定すべきことを示唆する研究である。
NPSを一時点の推奨者・中立者・批判者という分類としてではなく、同一顧客の複数回の回答を時間軸上で追跡する「軌跡」として扱う実務的アプローチである。長期間に蓄積されたNPSデータを基に、顧客関係を安定、改善、悪化、急速な悪化、離脱、回復など六つの変化パターンへ分類する。従来のNPSが「現在の顧客状態」を示す静止画であるのに対し、「どの方向へ変化しているか」を分析する点が重要である。PSJ研究においても、一時点のNPSとのスコア比較だけでなく、顧客関係の変化をどちらが早く捉えられるかという縦断的研究へ発展させる示唆を与える。
NPS、顧客満足度(CSAT)、顧客努力指標(CES)、再購買意向という四つの顧客評価指標について、それぞれが何を測定し、顧客との関係のどの段階で利用すべきかをB2Bの文脈で整理した実務資料である。NPSは企業との関係全体に対する推奨意向、CSATは個々の接点での満足、CESは顧客が負担した手間、再購買意向は継続利用の意向を主として測定する。このため単一指標で顧客経験全体を把握することには限界がある。PSJについてもNPSの単純な代替指標としてではなく、CSAT、CES、実際の再購買行動と組み合わせ、その追加的な説明力・予測力を検証する方向を示唆する。
NPSの簡潔さと比較可能性を評価する一方、複雑なB2Bの顧客関係を単一の数値だけで評価することの限界を論じた実務分析である。複数の意思決定者が関与し、契約額が大きく、取引期間も長いB2Bでは、一人の回答者による推奨意向が取引先企業全体との関係を代表するとは限らない。このためNPSを廃止するのではなく、顧客企業との関係の健全性、自由記述、関係者ごとの評価差、実際の取引データなどと組み合わせることを提唱する。PSJをB2Bへ応用する場合にも、測定単位を個人とするか企業・取引先単位とするかという重要な研究課題を提起する資料である。
米国のインターネット利用世帯を対象に、生成AIの認知、利用状況、課金、消費者評価、NPSなどを継続的に測定する調査資料である。主要な生成AIサービスについて利用率とNPSを追跡するとともに、有料AIサービスの利用状況や利用用途、AIに対する懸念なども分析している。同一のAIサービスであっても、課金の有無、利用頻度、利用経験、期待水準などによって顧客評価が異なる可能性を検討できる点が重要である。PSJとNPSの比較研究においても平均値だけを比較するのではなく、有料・無料、利用頻度、利用期間などの顧客属性を統制する必要性を考える上で有用な資料である。
2025年中に収集された約350万件の回答を基に、顧客満足度(CSAT)とNPSを業種・企業規模別に比較した大規模な実務データである。全体のCSATは87.8%、NPSは52であるが、企業の約3分の2がCSAT 90%以上に集中する一方、NPSは企業間のばらつきが大きい。また、技術関連企業ではCSATが高くても推奨意向が必ずしも同様に高くならない。これは個々の取引に対する満足と企業全体への推奨意向が異なる概念であることを示唆する。CSAT、NPS、PSJを単一の「顧客満足指標」とみなさず、それぞれの測定対象と予測力を比較する上で有用な資料である。
サービス研究が顧客を価値共創の主体として積極的に位置づけてきたことに対し、顧客は第一線従業員の労働環境やウェルビーイングを悪化させる「価値共破壊」の主体にもなり得ることを指摘した特集号の論考である。顧客満足や顧客志向を無条件に最大化する従来の考え方から、顧客価値と従業員の働きがい、人間らしい労働、顧客側の責任を同時に考慮する方向への転換を提起する。カスタマーハラスメントを例外的な悪質顧客問題として切り離さず、サービス接点における価値形成・価値破壊の問題として理論化できる点が重要である。
日常的に顧客、取引先、患者、生徒、保護者などと接する全国の男女1,000名を対象としたカスタマーハラスメントの実態調査である。顧客対応に従事する人のおよそ2人に1人がカスハラを経験し、繰り返し被害を受けた人の26.9%が転職活動など実際の退職に向けた行動を取っていたと報告する。学術研究では「離職したいと思うか」という離職意向を成果変数とする場合が多いが、実際の転職・退職準備行動まで把握している点に価値がある。カスハラから心理的損傷、仕事への関与低下、離職行動、さらに企業のサービス提供能力低下へ至る過程を検討するための日本の実務データとして有用である。
米国ホスピタリティ産業の従業員を対象に、賃金や福利厚生だけでは捉えられない「仕事の質」と従業員成果との関係を分析した研究である。収入、福利厚生に加えて、勤務日程の不安定性、雇用上の問題、雇用保障、従業員の発言権、仕事上の裁量、顧客の非礼行動などを測定した結果、複数の非金銭的要因が職務満足や離職意向と関連することが示された。インターナル・マーケティングを報酬や研修だけで捉えることの限界を示し、とりわけ顧客の非礼行動を「仕事の質」の構成要因として位置づけた点は、日本のカスタマーハラスメント研究との接続可能性が高い。
2018~2024年に公表された467本のサービスと持続可能性に関する研究を統合し、持続可能性を個別企業の環境対応ではなく、サービス・エコシステム全体を変革する問題として再構成した研究である。既存制度への適応を中心とする持続可能性と、制度や関係主体そのものを変革する持続可能性を統合し、企業が複数の主体や制度を調整するための四つの類型と管理上の道筋を提示する。サービス・ドミナント・ロジックやサービス・エコシステム研究を持続可能性へ接続し、分析単位を個別企業から相互依存する主体群へ拡張した点に大きな理論的価値がある。
企業のAI活用が小規模な試行から全社的展開へ進むにつれて、「AI導入準備」の意味も、単なる技術的準備から、人間、AI、データ、業務プロセスを統合・調整する組織能力へ変化すると論じた研究である。動的能力論と社会技術システム論を踏まえ、AIによる成果を技術単体の性能ではなく、組織能力、統治、業務プロセスとの組み合わせとして捉える。AIを導入すればサービス成果が自動的に向上するという単純な因果関係ではなく、業務再設計や組織的調整能力を媒介要因として検討する必要性を示しており、AI時代のサービス・マネジメント研究に有用である。
サービス失敗後の回復場面について、AI担当者と人間担当者のどちらが対応するかだけでなく、顧客に対してどのような説明を行うかを中心に検討した研究である。特に完全な問題解決が困難な状況では、最終的な結果だけでなく、なぜその結果になったのかを顧客が理解できる説明が評価を左右することに着目する。従来の「AIか人間か」という単純比較を越え、担当主体と説明方法の組み合わせとしてサービス・リカバリーを捉えた点が重要である。生成AIを組み込んだサービス・ブループリント、AIから人間への引き継ぎ、苦情処理などを研究・教育する際の中核文献となり得る。
AIがITサービス管理の日常業務に組み込まれた後、実際にどの程度の成果を生んでいるかを検討した実務調査である。AIによって作業時間が短縮されても、追加調整、システム統合の維持、人的確認など新たな作業が発生し、期待された生産性向上が相殺される「隠れた負担」に注目している。また、AIの利用件数など活動量ではなく、問題解決や業務成果を基準に管理する必要性を指摘する。AI導入=生産性向上という単純な図式を見直し、導入後の保守・確認・再設計に要する費用まで含めてサービス生産性を測定すべきことを示す点で実務的価値が高い。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を背景として、相談窓口、企業・団体向け研修、専門家派遣、対策マニュアルの作成支援などを組み合わせ、企業等におけるカスハラ対策の実装を支援する事業である。単に「カスハラを禁止する」という一般方針を示すだけでなく、対面、訪問など顧客との接触形態に応じた具体的対応を扱っている点が重要である。カスハラ対策が人事・労務上の施策にとどまらず、初期対応、上位者への引き継ぎ、安全確保、組織的対応など顧客接点そのものを再設計するサービス・デザインの問題へ発展していることを示しており、業種別・接点別の対応モデルを研究する上でも有用である。
2018~2024年に公表された467本のサービスと持続可能性に関する研究を統合し、持続可能性を個別企業の環境対応ではなく、サービス・エコシステム全体を変革する問題として再構成した研究である。既存制度への適応を中心とする持続可能性と、制度や関係主体そのものを変革する持続可能性を統合し、企業が複数の主体や制度を調整するための四つの類型と管理上の道筋を提示する。サービス・ドミナント・ロジックやサービス・エコシステム研究を持続可能性へ接続し、分析単位を個別企業から相互依存する主体群へ拡張した点に大きな理論的価値がある。
顧客の無礼・非礼な言動が第一線従業員の「静かな退職」、すなわち退職はしないものの必要最低限の仕事しかしなくなる行動へどう結びつくかを、日本の高接触型サービス業の正規従業員336名を対象とする3時点調査で検証した研究である。分析の結果、顧客の非礼行動は「仕事の有意味感」を損なうことを通じて、静かな退職を促進するとともに創造性を低下させることが示された。カスハラの組織的損失を離職や精神的消耗だけでなく、従業員の貢献意欲や創造性の低下まで広げて捉えた点が重要であり、日本のカスハラ研究との関連性が極めて高い。
AIを活用したホスピタリティ・サービスにおいて、顧客が知覚するAIの「有能さ」と「温かさ」、さらに社会的存在感や社会性を重視したコミュニケーションが、感情的満足とAIへの信頼を介して顧客ロイヤルティにどう結びつくかを検証した研究である。AIサービスを正確性や応答速度だけで評価せず、人間との接客に近い社会的・感情的相互作用として捉えた点が重要である。分析ではAIへの信頼が重要な媒介要因となり、さらに愛着不安が感情的満足とロイヤルティの関係を調整することが示された。AIサービスでは機能的品質に加え、温かさ、社会的存在感、コミュニケーション方法、顧客の個人差を考慮した設計が必要であることを示唆する。
顧客不満を顧客側の否定的成果としてだけ捉えるのではなく、それを受け止める第一線従業員にどのような正負の影響が生じるかを検討した研究である。顧客から示される不満は従業員に心理的負担を与える一方、問題点を発見し、サービス改善行動を促進する情報資源として機能する可能性もある。従来のサービス・リカバリー研究が「不満を持つ顧客をどのように満足状態へ戻すか」に重点を置いてきたのに対し、顧客不満が従業員の学習や組織的改善へ波及する過程を分析対象に加えている。苦情対応を単なる顧客処理ではなく、組織学習を生み出すフィードバック・システムとして考える上で有用な研究である。
AIを活用したマーケティング施策と消費者行動に関する既存研究を、計量書誌分析と体系的文献レビューによって統合した研究である。既存研究で用いられてきた理論、研究方法、主要テーマと成果を整理するとともに、今後検討すべき研究課題を体系化している。生成AIの登場後に急増したAIマーケティング研究を個々の技術や事例として追うのではなく、研究領域全体の構造と研究上の空白を俯瞰できる点に価値がある。サービス・マーケティング研究にAIを組み込む際には、先行研究レビューの出発点として利用できるほか、修士論文・博士論文における研究課題の発見にも有用な資料である。
ホテル従業員とAIとの協働が職業生活の質に与える正負双方の影響を、認知的評価理論に基づいて検証した研究である。予備調査、シナリオ実験、3時点調査、質的インタビューという四つの研究を組み合わせている。AIとの協働は、仕事に心理的・認知的資源を投入できる「心理的余裕」を高めて職業生活の質を改善する一方、期待と実際のAI能力との不一致や感情的消耗を通じて悪影響も生じ得る。AI導入を顧客経験や生産性だけで評価せず、従業員の経験とウェルビーイングを成果変数として捉えた点が重要であり、AI時代のインターナル・マーケティングや職務設計に重要な示唆を与える。
AI技術の統合が、サービス従業員の業務成果を向上させる場合と低下させる場合がなぜ生じるのかを、役割ストレスと制御焦点の観点から説明した研究である。ホテル従業員とその上司を対象とする2段階調査と質的事例研究を組み合わせた混合研究法を採用した。AI統合は役割過重を通じて業務成果を高める一方、役割葛藤を通じて業務成果を低下させるという二重の効果を示し、その強さは従業員の促進焦点・予防焦点によって異なる。AI導入を一律に生産性向上策とみなさず、役割設計、研修、個人特性まで考慮したインターナル・マーケティングが必要であることを示す重要な研究である。
Service-Dominant LogicをAI時代に再検討し、AIを単なる企業の生産性向上ツールではなく、service ecosystemにおけるoperant resourceおよびdistributed intelligenceの構成要素として位置づけた理論論文である。AIが人間のagencyを代替するという二分法を避け、人間・AI・制度・技術が相互作用しながらvalue creationを形成する視点を提示する。生成AIをサービス研究の既存理論へどのように組み込むかという根本問題を扱っており、AI serviceを個別technologyの採用問題からservice ecosystemの構造変化として捉えるための理論的基礎文献である。
AI導入を経営トップの意思決定や技術性能だけから説明するのではなく、frontline managerがAI実装の促進要因にも阻害要因にもなり得ることに注目した研究である。AI実装を担当するfrontline managerおよびtop management executive計51名のmental modelをtheories-in-use approachによって分析している。現場でのAI活用はtechnology readinessだけでは決まらず、管理職がAIの役割、従業員との分業、導入目的をどのように理解しているかに左右される。Internal Marketingを従業員への情報伝達・教育から、AIを現場に定着させるorganizational implementation capabilityへ拡張する上で重要な研究である。
B2Bにおける顧客体験(カスタマージャーニー)を、顧客側だけでなく供給者(サプライヤー)側を含む相互作用の過程として捉え、56名の管理職への調査と既存研究を統合して三つの類型を提示した研究である。第一は効率性と顧客の負担軽減を重視する「効率重視型ジャーニー」、第二は顧客とサプライヤーの協働を重視する「共創型ジャーニー」、第三は戦略的パートナーシップを通じた新しい価値創造を目指す「変革型ジャーニー」である。B2Cで発達したカスタマージャーニーマッピングをB2Bへ単純に転用することの限界を示し、取引関係、顧客の目的、接点(タッチポイント)の性質に応じて顧客体験マネジメント(CXM)を設計すべきことを明確化した点に理論的価値がある。
NPSが将来の実際の顧客行動を予測するかを、欧州38スキーリゾートにおける12万件超の顧客調査とRFIDによる実来場データを結合して検証した縦断研究である。NPSは将来の来場者数を有意に予測するものの、顧客満足度を上回る予測力は確認されず、回答者の利用経験や測定から行動までの時間差によって予測力が変化することも示された。自己申告による推薦意向ではなく実際の再利用行動を基準変数とした点が重要であり、PSJとNPSの比較においても、実購買・再利用を用いたlongitudinal predictive validityを検証すべきことを示す中核論文である。
「ホスピタリティ分野におけるサービス・ロボット:従業員の認識と組織的支援の役割の理解」
本研究は、ホテルなどホスピタリティ産業におけるサービス・ロボット導入が従業員の離職意図に与える影響を分析している。米国のホスピタリティ従業員279名を対象とした調査データを構造方程式モデリングで検証した結果、ロボットが仕事の成果を高めるというパフォーマンス期待はロボットに対する知覚リスクを低下させる一方、利用に手間がかかるという努力期待はリスク認知を高めることを明らかにしている。さらに、この知覚リスクが従業員の離職意図に影響する媒介要因として働くことが確認された。また、組織が従業員を支援しているという知覚組織支援は、ロボット導入によるリスク認知を緩和し、離職意図を抑える調整効果を持つことを示している。
https://doi.org/10.1080/19368623.2025.2553709
「AIまたは人間によるサービス・リカバリー:失敗や戦略的状況は影響するのか?」
サービス失敗後のリカバリーをAIと人間のどちらが担当すべきかが、失敗原因と回復策によってどうことなるかが検討なされている。金融・医療サービスにおけるチャット対応を動画で再現し、3つの実験が実施され、その結果、失敗原因が顧客側にある場合にはAIが、一方、企業側にある場合には人間の担当者が選好された。さらに、原因の説明や金銭的補償ではAIが、謝罪やサービスの修正・再提供などの機能的補償では人間によるもの方が高く評価された。これらの違いは、両者に対する能力、善意、誠実性の知覚、すなわち信頼性評価によって説明されると結論づけられている。企業は、AIか人間かを一律に決めるのではなく、失敗の所在と回復策を組み合わせて担当主体を選択することで、顧客満足とロイヤルティを高められることを示唆している。
「サービスにおける従業員―ロボット協働:心理的所有感、顧客の帰属認知、および顧客エンゲージメント」
本論文は、サービス現場における従業員とロボットの協働(employee–robot collaboration)が顧客反応に与える影響を、「心理的所有感(psychological ownership)」の観点から解明しようとしている。これまで研究は、ロボット単独のサービスに焦点を当てることが多かったが、本研究は人間とロボットが共同でサービス提供する状況を対象とし、ロボットの操作可能性・応答性・魅力といった特性が心理的所有感を喚起し、それが企業がロボットを導入した理由を「サービス向上」と顧客が帰属する認知を媒介して、顧客エンゲージメントを高めることを示している。また、コスト削減動機の帰属は顧客反応に影響しないことを明らかにし、人間―ロボットの協働サービスの顧客評価メカニズムを理論的に拡張した。
https://doi.org/10.1080/02642069.2025.2508975
「高齢消費者に対する健康・フィットネスのマーケティング訴求」
本研究では、認知老化研究の「環境的支援(environmental support)」理論とマーケティングの「メンタル・イメージ(mental imagery)」研究を統合し、高齢消費者の身体活動促進が分析されている。従来の研究では健康行動や社会的支援を個別に扱うことが多かったが、本研究は複数の実証研究を通じて、認知負荷を減らす支援が運動動機を高めるメカニズムを示している。また、広告表現の画像強化よりも、立位姿勢など身体状態(embodied cognition)が運動の想像や動機づけを高めることを新たに実験的に示している。さらに、高齢者が特に高強度運動に自信を持ちにくいことを明らかにし、健康・フィットネス産業の具体的介入領域を提示している。
https://doi.org/10.1080/02642069.2024.2355255
「不都合な真実:デジタル・プラットフォームにおけるサービス不便性の理解」
本研究は、デジタル・プラットフォームにおけるサービスの不便さ(service inconvenience)が顧客満足に与える影響を分析している。フードデリバリー・アプリに関する222,371件の書き込みをテキスト分析し、サービス利便性のモデルと帰属理論を統合して検証している。分析結果として、配送の遅延や注文キャンセルなどの不便さは満足度を大きく低下させるが、その影響は消費者が原因をどう解釈するかによって大きく増幅されることが判明した。特に「同じ問題が繰り返される」と認識される安定性帰属や「企業の責任」と判断される責任帰属がある場合、満足度への負の影響は数倍に拡大する。また分析から、リモートサポートの不便さ(顧客サポート対応の不備)という新しい概念も抽出された。これらの結果は、プラットフォーム企業が不便の原因説明や顧客対応を改善する重要性を示している。